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大野光明 小杉亮子 松井隆志 編/新曜社/A5判並製/144ページ
戦後史のなかで、無名の人々や学生が生活・労働・学問の場で巨大な力に抗ってきた営みを、社会運動史に再構成する新たなメディア。史料に残されなかった社会運動の現場の出来事や語りに注目、社会学・歴史学の専門領域を超える関心と手法。
目次
なぜ私たちは『社会運動史研究』を始めるのか
特集 運動史とは何か
私の運動史研究宣言 松井 隆志
「史観」の困難と生活史の可能性――一九六〇年代学生運動研究の経験から 小杉 亮子
運動のダイナミズムをとらえる歴史実践――社会運動史研究の位置と方法 大野 光明
座談会
社会運動史をともにつくるために――問題意識と争点
阿部 小涼+安岡 健一+大野 光明+小杉 亮子+松井 隆志
「運動史研究会」について――資料『運動史研究』総目次 1~17(一九七八年二月~一九八六年二月)・運動史研究会について 伊藤晃
インタビュー
谷合 佳代子さん(エル・ライブラリー館長)社会運動アーカイブズの現在
聞き手 大野 光明・小杉 亮子
書評
小杉亮子著『東大闘争の語り』 山本 崇記
記念誌編集委員会 編『あの日 あの時 この時代』『あの日 あの時 この時代』 市橋 秀夫
李 美淑 著『「日韓連帯運動」の時代』 山本 興正
編集後記
『社会運動史研究2』予告・投稿募集
装幀 川邉雄
装画 A3BC(反戦反核版画コレクティヴ)
特集にあたって
社会運動史研究をめぐる新たなメディアをスタートするにあたり、社会運動史とは何か、どのような方法と視座から書かれてきたのか、そして、社会運動史研究にどのような意味と課題があるのかなど、根本的な問いを避けて通ることはできない。本特集はこれらの問いに正面から向き合い、知見を共有し、社会運動史研究の現在地を多角的に示すことを試みる。
まず、このメディアの発起人の松井隆志、小杉亮子、大野光明による論考は、自らが考える社会運動史研究の方法と枠組みを、それぞれの研究・運動経験に触れながら論じたものである。三つの論考は既存の社会運動史研究の課題を指摘し、その克服のための視座を探っている。
三つの論考で提起された点を、より広いアカデミックかつ実践的な議論へと接続するため、阿部小涼さんと安岡健一さんを招いて座談会を行い、その記録を掲載した。社会運動史研究をとりまく社会状況、運動とアカデミズムとの関係と距離、文書資料とオーラル・ヒストリーの方法論など、多くの重要な論点が出され、話し合われている。三つの論考とあわせて、本メディアの出発点として読んでいただきたい。
この座談会でも語られたことだが、社会運動史研究に特化したメディアや雑誌は、管見の限り、現代日本には見当たらない。だが先行事例はある。その一つとして「運動史研究会」が発行した『運動史研究』(1978~1986)がある。同会の事務局を担った伊藤晃さんに、その歴史、成果、残された課題などについて論じていただいた。『運動史研究』の時代は現在とは社会・政治状況が大きく異なるものの、その休止から三〇年以上経ってもなお、継承が待たれたまま豊かな成果と教訓が遺されているのではないだろうか。
そして、社会運動史研究は、資料を集め、整理し、公開してきたアーカイブズの存在抜きには成り立たない。だが、日本社会では長くつづく低成長・ゼロ成長の経済状況と新自由主義の強い影響や「攻撃」を受け、アーカイブズは存続の危機にある。その一例はエル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)である。館長の谷合佳代子さんへのインタビューでは、同館の成り立ちと精力的な活動が語られ、アーカイブズを持続させる仕組みづくりの必要性が強調されている。これは社会運動史研究の実践的かつ喫緊の課題でもある。本メディアでは社会運動アーカイブズとさまざまなつながりをつくりながら、知見を共有し、情報発信をつづけたいと考えている。
本特集を通じて、多くの人に、社会運動史への探究の扉を開いてもらいたい。(編者)