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アミタヴ・ゴーシュ著 三原芳秋訳 井沼香保里訳/以文社/四六判並製/344ページ
インド出身の世界的な作家アミタヴ・ゴーシュが、シカゴ大学で行った地球温暖化・気候変動に関する講演に基づく、「物語」「歴史」「政治」の三部からなるエッセイ集。巻末には日本語翻訳版独自に、訳者による特別インタヴューを掲載。
なぜ、これまで「気候変動」は、「真剣な小説(シリアス・フィクション)」の主要なテーマとされてこなかったのか。
そこにはいまだに、19世紀を通してつくりあげられたブルジョワ的秩序と「近代」的な世界観を基調とした、「平凡」で「おだやか」なものという「自然」概念が息づく。また、20世紀におけるシュールレアリスムやマジカル・リアリズムといったリアリズム芸術の潮流もまた、気候変動を描くことにおいては倫理的困難にぶつかってしまう。
こうして、21世紀における「オブジェクト指向存在論」「アクターネットワーク理論」「新しいアニミズム」といった新しい思想は、気候変動という危機と人間ならざるものとのかかわりにおける、「思考しえぬもの」の「認知=再認」の問題に呼応しながら登場してきたと言えるだろう。それは、今後ますます増加するであろう、人間ならざるもの(ノン・ヒューマン)が現に、かつ身近に存在しているという「不気味さ」との対峙でもある。
著者のアミタヴ・ゴーシュは、気候変動そのものが資本主義と帝国によって推進されてきたこと、ポストコロニアリズムと「人新世」的諸問題のつながりを指摘しながら、「惑星的危機」の時代に警鐘を鳴らす。「気候変動の危機はまた、文化の危機でもあり、したがって想像力の危機でもあるのだ」と。
目次
第一部 物語
第二部 歴史
第三部 歴史
著者インタヴュー
訳者あとがき
アミタヴ・ゴーシュ (著/文)
1956年、インド西ベンガル州カルカッタ(現コルカタ)生まれ。父の仕事の関係で幼少期をダッカ、コロンボで過ごす。デリー大学で修士課程修了ののち渡英し、オクスフォード大学で博士号(社会人類学)取得。帰国後、母校などで研究・教育にたずさわりつつ小説を執筆し1986年に『理性の円環』でデビュー。ヒンドゥー教徒によるシク教徒虐殺事件を背景にした次作『シャドウ・ラインズ』(井坂理穂訳、而立書房)はインド国内で複数の文学賞を受賞。1988年以降アメリカに拠点を移し、SF作品『カルカッタ染色体』(伊藤真訳、DHC)でアーサー・C・クラーク賞を受賞、さらに大河小説『ガラスの宮殿』(小沢自然・小野正嗣訳、新潮クレスト・ブックス)の成功で世界的名声を得る。その後、アヘン戦争を背景とする「アイビス号三部作」やシュンドルボンを舞台とする『飢えた潮』『ガン島』などの創作にくわえ、本書や『ナツメグの呪い』などのノンフィクション作品で「惑星的危機」の問題に精力的に取り組んでいる。
三原 芳秋 (ミハラ ヨシアキ) (翻訳)
1974年生まれ。一橋大学大学院言語社会研究科教授。東京大学修士、コーネル大学博士(英文学)。東京大学助手、お茶の水女子大学講師、同志社大学准教授をへて現職。英文学(おもに詩)および文学理論を専攻。編訳書にゴウリ・ヴィシュワナータン『異議申し立てとしての宗教』(みすず書房、2018年)、共訳書にエドワード・W・サイード『故国喪失についての省察 1』(みすず書房、2006年)、共編著に『クリティカル・ワード 文学理論』(フィルムアート社、2020年)。主要論文に、「〈宗教的なるもの〉の異相」(『思想』、2021年5月)、“Vico or Spinoza: An Other Way of Looking at Theory, circa 1983”, Ex-position 40 (2018)、「崔載瑞のOrder」(『사이間SAI』4 (2008))など。
井沼 香保里 (イヌマ カオリ) (翻訳)
1989年生まれ。多摩美術大学大学院美術研究科助教。一橋大学大学院言語社会研究科博士課程修了。博士(学術)。近代英国における超自然の存在や現象にまつわる語りを通して、脱人間中心的な存在の在り方について考察。論文に、Towards Fairy Ontology: Writing/Reading the Cottingley Fairies(一橋大学言語社会研究科博士論文、2021年)、「新資料に見る『コティングリー妖精写真事件』の再演、再構成の可能性」(井村君江ほか編著『コティングリー妖精事件 イギリス妖精写真の新事実』青弓社、2021年)など。解説に、「ポストヒューマン/ニズムと文学」(三原芳秋ほか編著)『クリティカル・ワード 文学理論 読み方を学び文学と出会いなおす』(フィルムアート社、2020年)など。