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山崎 明子/人文書院/四六判 上製/286ページ
手仕事をめぐる言説に隠されたジェンダー構造を明らかにする画期的研究
人々の関心を集めながらも、社会の傍流へ追いやられる手仕事がある。そんな「やりがいのあるものづくり」が奨励されるとき、その言説にはジェンダーの問題が潜んでいるのではないか。学校での家庭科、戦時下における針仕事の動員、戦後の手芸ブーム、伝統工芸における女性職人、刑務所での工芸品作りなど、趣味以上・労働未満の創作活動を支えている、フェミナイズ(女性化)する言説を探る。
「多くの女性化された創造活動は、それが「仕事」であっても、「家庭」と結びつけられやすく、またその語りは「楽しさ」や「やりがい」など、自己啓発的な言葉に満ちている。そして女性化された仕事は、今日、グローバルに組織されたものづくりの現場に広がっている。そこには、「女性」だけでなく、移民、女性化された男性、そしてその子どもたちも含まれ、家父長的な家族観がまだ強く、労働のための法やその準備のための教育が十分に確立していない社会では、こうした家父長的な構造を容易に利用できてしまうのだ。近代家族の中で女性たちが行ってきた仕事は、より女性化された人々に移譲され、消費者となった女性たちには移譲の現実が不可視化されている。この問題は、今を生きる私たちにとって、決して他人事ではないはずだ。」(本書より)
目次
序 言説の旅の始まり
言説が生み出すものづくりの世界
梅棹忠夫かく語りき
ジェンダー化のポリティクス
本書の構成
第一章 万一のために手芸をせよ――近代手芸論
学校で手芸を学ぶべし
皇后だって養蚕をしているのだから……
先ず心の美より養ふべし
母たる方々に手芸は実に必要
手工は家庭をして平和幸福の天地とならしむ
申さば一の慰み稽古の如くなり
第二章 国益に供せよ――内職論
産なきの輩への内職のススメ
国益に供せよ
誰にでもできて上品
決戦下の主婦の務でありませう
お金もうけだけが目的でできるものではありません
第三章 貴女は慰めになる――戦時下の手芸論
戦争中なのに手芸なんて
軍艦だつてもとは手芸から出発してゐる
花をつくっている奴は非国民だ
真心の弾丸
メディアの中の慰問人形
背囊に小さな人形をぶら下げて
戦時だからこそ手芸が必要なのです
第四章 祈りを届けよ――千人針の表象
女性の〝呪力〟によって敵から身を守る
「千人針」という戦時パフォーマンス
表象の「千人針」
縫う女を見ていたい
第五章 家庭は貴女の展覧会場――戦後手芸論
このおそるべき手芸ブーム
戦後手芸界の再編――手芸ブームの土台
「暮らしの中の手芸」
白い壁を手芸作品で飾りましょう
女って、針さえ持っていれば心が休まりますものね
あんなに丹精をこめるワイフなら
第六章 救世主は貴女だ――女職人論
職人の世界は「おとこ社会」である
職人になりたい
伝統工芸界は危機の時代にある
まさに女性にふさわしい仕事である
伝統工芸は生き残れるのか
救世主は貴女だ
第七章 社会の役に立たねば――刑務所の伝統工芸論
人件費タダですから
働く者としての忍耐強さを醸成する
低賃金でも継続的に就労する
技能を習得しても就職に結び付かない
刑務作業で地域に貢献
社会の役に立て
終章 言説のゆくえ
抵抗の言説・抵抗の手芸――フェミニズムと手芸
男が手芸をして何が悪い――Queering the Subversive Stitch
「好き」を「仕事」にする!――ハンドメイドブーム
あとがき
初出一覧
人名索引
山崎 明子 (ヤマサキ アキコ) (著)
1967年、京都府生まれ。千葉大学大学院社会文化科学研究科博士課程修了。博士(文学)。現在、奈良女子大学生活環境科学系教授。視覚文化論、美術制度史、ジェンダー論。著書に『近代日本の「手芸」とジェンダー』(世織書房)、共著に『歴史を読み替えるジェンダーから見た日本史』(大月書店)、『視覚表象と音楽』(明石書店)、『ひとはなぜ乳房を求めるのか』(青弓社)、『〈妊婦〉アート論』(青弓社)、『問いかけるアイヌ・アート』(岩波書店)、『現代手芸考』(フィルムアート社)など。